中学生職場体験で、彼女達が企画したレクリエーションのフィナーレは表彰式だ。
ボーリングの上位3名を発表し、優勝者には手作りの賞状を用意していた。
『えぇ~わしが!?』 優勝者発表に驚いた表情のS様。賞状を受け取りに職員と一緒に前に出る。
賞状が手渡される瞬間、『ありがとう!ありがとう!』と喜びの表情の中、S様の目は潤んでいた。
実はこの後、ちょっとしたサプライズを用意している。
三日間の職場体験を頑張ったことを賞して、彼女達にも賞状を用意していたのだ。
彼女達への賞状授与はS様にも手伝って頂く。
このブログでよく登場しているS様が、いこいを利用しだしたのは7年前だ。
7年前と比べ ”もの忘れ” が進行している事は否定できない。
最近では、「読む」行為が苦手になっており、避けようとする傾向が見られる。
その時々で違いはあるものの、特に漢字を難解と感じている様に思える。
そんなS様は、おそらく賞状の文章を読むことは困難だと考えていたので
『三日間頑張りました。』と言ってもらい渡す段取りを想定していた。
勿論、S様が授与役を避けようとした場合、無理強いはしない。
「Sさん、若い子達に賞状を渡そうと思うんです。」
付き添い職員が声を掛ける。
『賞状?どないするんかね?』
独特の伊予弁イントネーションでS様が問いかける。
「皆さん三日間頑張ったので、この賞状を渡して頂きたいんです。」
『ほう!三日間も!』、『よっしゃ、よっしゃ』
「三日間頑張りましたと言って・・・」
付き添い職員が説明を始めた瞬間、
『どっから読むんかいね?ちゃんと読んだげにゃあかんだろ?』
「あっ・・ここからです。」
『えっと・・・あなたは・・・・・・・』
「中学校。職場体験です。」
職員が小声で伝える。
『中学校。職場体験で、この、三日間、とても・・・・』
「頑張っていました。」
『頑張っていました。その・・・・』
「頑張りを賞して」
『頑張りを賞して、ここに・・・・・』
「表彰します。」
『表彰します。』、『名前は?』
「○○さんです。」
『○○さん!よく頑張りました!』と言いながら賞状を反転させるS様、
背筋がシュッと伸びたその姿は、かつての公民館館長のS様に見えた。
おそらく、子ども会や婦人会等、様々な式典で賞状を授与してきたのだろう。
その姿が容易に想像できる。
これは推測だが、
賞状はきちんと読み上げて渡してあげなければならない。そのS様の強い意志は、
漢字が読みにくいので読みたくない。読めなかったら笑われないだろうか?と思う気持ちを
凌駕したのではないだろうか?
そして、この気持ちになったのは、ボーリングで優勝した事だけではなく
演奏から始まったこのレクリエーション全体の雰囲気だと断言できる。
一人の利用者様の気持ちを、マイナスからプラスに変換できた。
ここに介護のやりがいが集約されていると思う。
この積み重ねが介護そのものであり、理想としている形だ。
S様が賞状を読む気持ちになった事。その姿を見た職員のモチベーションが上がった事は
最後の反省会で彼女達と担当の先生にも聞いて頂いた。
今回の職場体験で介護の楽しい一面と同時に、やりがいの部分も感じてもらえればと思う。